とうきょうすくわくプログラム活動報告 蚕の飼育と観察

令和6年度から「とうきょうすくわくプログラム」が始まりました。青梅梨の木保育園では、テーマを二つ選び、参加しました。

1つ目のテーマ【蚕の飼育から命のつながりを知る】です。

3歳・4歳・5歳クラス中心で蚕のお世話、ふれあい、観察を進めました。以下にまとめましたのでご覧ください。

とうきょうすくわくプログラム

青梅梨の木保育園では、2024年度より、とうきょうすくわくプログラムを始めました。
子どもたちの自己肯定感や思いやり等の非認知能力を培うことを目的とし、好奇心・探究心を育む探索活動をすすめます。

1 活動のテーマ【蚕の飼育と観察から命のつながりを知る。】

蚕を育て観察することで、命の循環や生命の不思議などに興味関心を持ち、色々なことを考え、調べる体験につなげる。

<テーマを選んだ理由>
青梅梨の木保育園では、15年以上前から【循環】と【生物多様性】をテーマに環境作りを行っています。園庭に地域の自然を取り込むことで、地域の生き物が園庭に生息し、子どもたちは植物生物に興味を持って日々遊んでいます。その中の1つとして続けている【カイコの飼育】をテーマに選びました。
蚕は短期間に一生を終わり次の世代に命をつなぐため、子どもたちが命のつながりを観察することができる珍しい生き物です。
卵から孵化し、幼虫として4回の脱皮をしながら成長し、糸を吐いて繭を作った中で蛹化し、成虫となり繭を破って出てきます。そして交尾し卵を産み一生を終わります。神秘に満ちています。
毎年主に4歳児5歳児が蚕の観察、糞の始末、繭の取り出し等を行っています。糞は子どもたちが園庭の畑や果樹の周りに撒いて肥料にしています。

<対象年齢(クラス)>
3歳(しか組) 4歳(くま組) 5歳(きりん組)
3歳・4歳は観察
5歳は観察・飼育活動

2 活動スケジュール

5月に入り桑の木の発芽状態を子どもたちと確認し、蚕の卵を冷蔵庫から出して、1回太陽に当て室温に置 く。約1週間で孵化し、蚕の飼育開始。

3 活動のために準備した素材や道具、環境の設定

 子どもたちと園庭の桑の葉の芽吹きを確認し、新芽が出たら冷蔵庫から蚕の卵を出す。
蚕を飼育する段ボールで作った浅めの箱 ・孵化したての1齢幼虫の移動に使う筆 ・4齢5齢で使う糞やごみを落とすためのネット ・繭を作るためのまぶし ・蚕の絵 本 ・幼虫図鑑 ・昆虫図鑑 ・3・4・5歳保育室で蚕を飼育できるためのセット

4 探究活動の実践

<活動の内容>(主に5歳児)
①蚕は本当に桑の葉しか食べないのかな?
②蚕の足は何本? 蚕の体をよく見てみよう。
蚕の飼育観察をする中で子どもたちからの疑問を大切にし、探究心を育んでいきます。

 <予定していた実践の前に・・・>

 蚕の飼育にテーマを決め、準備をすすめていましたが、桑の葉が芽吹く前の3月下旬に、冷蔵庫保存せずに自室に置いていた卵が孵化してしまいました。
卒園する前の5歳児が、「絶対に桑の葉を探して食べさせて」「蚕がかわいそう」子どもたちがお世話をした蚕が産んだ卵でしたので子どもたちは真剣です。園庭の桑の木は芽も出ていないような状態でした。生まれた蚕が次々死んでいく中、小さめの桑の木に膨らんだ芽があるのを見つけることができました。まだ芽の状態ですが、木からちぎって幼虫に与えると、食べてくれ、何とか命をつなぐことができました。人工飼料も取り寄せることができますが、桑の葉での飼育にこだわりました。
自分の発見➡小さい桑の木の方が芽が出るのが早かった。
4月になり新5歳になった子どもたちが、途中から蚕の観察とお世話を引き継いでくれました。蚕は順調に成長し150個ほどの繭になりました。
命をつなぐため、しっかりした繭を10個ほど残し、残りは冷凍しました。この経験が次の蚕の飼育と観察につながっていきました。

<活動中の子どもの姿、声。子ども同士や保育士との関わり>

5月10日 園庭の桑の木の葉を確認。・毎年蚕を育てているが、興味のなかった子は桑の木のことも知らなかったようで、「これが桑の木なんだ。」とよく見ていた。
5月13日 蚕の卵を冷蔵庫から出す。・冷蔵庫がない頃は、風穴などの気温の低いところで保管していたそうです。
5月25日 孵化開始【1齢幼虫】 ・1回目の脱皮前は黒くて毛が生えていて毛子(けご)と呼ばれている。子どもたちは「生まれた時はこんなに小さいんだ。」と驚いていた。生まれてしばらくは桑の新芽をあげる。葉が乾きやすので、ラップなどで蓋をする。
5月28日 1回目の脱皮開始【2齢幼虫】 ・生まれて3日くらい経つと、桑の葉を食べずに頭を上に上げ動かなくなります。これを「眠」と言い、脱皮の始まりです。眠に入ったら餌はあげず、そっとしておきます。眠に入り動かなくなると子どもたちは「死なないかな。」ととても心配していました。1回目の脱皮が終わると身体が白くなります。桑の葉を食べる量が少しづつ増えてきます。右下の写真の頭が白くて体が茶色のは、脱皮途中の蚕です。気が付くと脱いだ殻が落ちています。脱皮が終わり蚕が動き出すと子どもたちもほっとしています。子どもたちは白が好きなので。「白い蚕はかわいい」と言っていました。
      園庭にある桑の木       卵から孵化する蚕       2回目の脱皮中の蚕
気温や湿度により成長速度は違いますが、約3日から4日経つと眠に入ります。2回目の脱皮が終わると【3齢幼虫】3回目の脱皮が終わると【4齢幼虫】と呼ばれます。4齢から5齢にかけて蚕はぐんぐん大きくなります。桑の葉もモリモリ食べ、大きなウンチをコロコロします。5日から6日で眠に入り4回目の脱皮が終わると【5齢 荘蚕そうさん】と呼ばれます。よく太り、すべすべしていて触り心地が良いので、子どもたちは手に乗せたり、指に絡ませたりしながら観察しています。

【 蚕は本当に桑の葉しか食べないのかな 】 

この問いに関しては、子どもたちの興味は意外と薄かったように感じます。桑の葉以外の葉と桑の葉を紙に置いて、蚕がどうするか実験しました。

桑・ミズヒキ・のらぼう菜の葉を置き、蚕を下の方に置きました。子どもたちと私は、匂いですぐに桑の葉を見つけると予想しました。ところが蚕は、20分経っても、30分経っても紙の上をのんびりと少し動くくらいで、子どもたちは観察に飽きてしまいました。お腹が空いていないのか、3匹中2匹は1時間たっても桑の葉に行きつかなかったです。子どもたちから「かわいそうだからもう実験はやめよう」という意見が出て中止しました。

子どもたちの考察 ①蚕はお腹が空いていなかった。 ②蚕は桑の葉以外の匂いを嗅いで、恐くなって何も食べられなかった。                                             

【 蚕の足は何本? 】蚕の体をよく見てみよう。

 蚕が4回目の脱皮を終え、とても大きく、観察しやすくなったところで、蚕の体の観察を始めました。蚕の絵本を読んだり、図鑑を見たり子どもたちも興味を持ってよく見ています。

 蚕が動くので、子どもたちが脚の数を数えるのは大変でした。子どもたちは実際に脚の本数を数えてから本で調べました。

 6本の〈胸脚/きょうきゃく〉と8本の〈腹脚/ふくきゃく・吸盤のようになっている〉と2本の〈尾脚/びきゃく〉合計16本の脚がありました。子どもたちも「こんなに 多かったんだね。」虫好きの子どもたちからは「蚕蛾/かいこがになると脚は6本なのにね。」 脚によって形状や動き、役割の違いにも気づき学んでいました。実際に蚕蛾になると、脚は腹脚だけ残り6本となります。蚕蛾になって出た後の繭の中に残りの脚は小さな塊で残っています。私はこれが脚だとは知りませんでした。すくわくのお陰で興味が広がりました。

 体の観察では、子ども達からたくさんのがありました。目だと思っていたのは、天敵の鳥などを驚かすための〈眼状紋/がんじょうもん〉と呼ばれる模様で、本物の目は体の先の口の隣に12個もありました。

 子どもたちから「尾の方の背中にある突起は、敵の攻撃に使えるの?何でとがってるの?」という質問もありました。突起は〈尾角/びかく〉という名前ですが、今は何の役割もない事がわかりました。「昔はもっと硬くて敵と戦う時に役にたったのかもしれない。」と考察している子もいました。

 糸を吐いて繭になるまでの観察もじっくりできました。専用のまぶし以外の場所での繭作りの観察もできました。なかなか繭になる場所が決まらずウロウロする蚕に、子どもたちも困っていました。

 繭から蚕蛾になって出てきた蚕蛾。そして交尾して卵を産む様子。更に卵から蚕が孵化して出てくる様子と、2サイクル見ることができました。子どもたちの探究心が育まれたことと思います。                                         

5 振り返り

< 振り返りによって得た保育士の気づき >

 毎年蚕の飼育と観察を行っていましたが、すくわくで目的をしっかり持ち、子どもたちと取り組んだことで、新しい発見が多くありました。繭を作り、蛹になった時に繭の中にゴミのように落ちていたのが腹脚だったとは考えもしませんでした。確かに蝶や蛾は昆虫で脚は6本、でも幼虫の時は木や草にしがみつくので脚は多い、その脚の行方にも興味が湧いてきました。すくわくで本や図鑑を購入し、子どもたちとじっくり観察し、一緒に考えることで自分自身も学ぶことが多かったです。小さな子どもたちですが、興味を持つと知りたいという能力がどんどん育つ姿にも驚かされました。保護者の中でも学校の授業で蚕に触れた方も多く、子どもたちと一緒に興味を持ってくれました。子どもの時の体験は大人になっても続くこともわかりました。

蚕の短い一生と命のつながり、蚕の触り心地、匂いも五感で感じてくれました。糞を畑や果樹の根元にまいて肥料とするなど、SDGS循環型環境の体験など蚕の飼育はいろいろなことにつながっています。

蚕が増えすぎて市内の保育園で飼ってもらったり、蚕の専門家の保護者に教えてもらったり、保育士が桑の葉を探して持ってきてくれたり、皆さんのご協力で毎年たくさんの蚕の飼育が出来ています。感謝しております。この蚕は7年前に保護者からいただいた蚕10匹から始まっています。私は以前から蚕の飼育はしていましたが、よくわからないまま1年ごとでした。今の蚕は、しっかりした繭を20個ほど選別し、それぞれ雄と雌をカップルとして、親の違う蚕の卵を残すようにしています。1年に2回程度飼育ができています。このところ、繭がしっかりし過ぎていて、自力で蚕蛾が出てこられないようなことが増え、繭を少し切って出やすくしています。

今後は絹糸取り、真綿作りなど繭の利用もしていきたいです。園長